地中海式ダイエットの話の続きです。
地中海地域の食スタイルは健康で長生きの元、という考えは、世界各地の食事と健康の関係を科学的に分析することで生まれました。
もっと細かく言うと、アメリカ人の死因の第1位である心臓病を減らすには、どうすればよいのか、という研究がそのベースにありました。
さらに具体的に言うと、そもそもは、アンセル・キーズというアメリカ人博士が、第二次大戦直後に、当時世界で最も栄養状態が良いと思われるアメリカのビジネスエリートと比べて、食糧不足に直面していたヨーロッパ人は、心臓病の発生率が急激に減少している、ということに気付いたのが、始まりでした。
ミネソタ大学の教授だったキーズ博士は、栄養と健康の関係を生理学的に分析するという学問の開拓者です。
当時はまだ、この分野は確立されていはなかったのです。
戦争直後の心臓疾患の発生率について興味を持った博士は、これはコレステロールレベルと関係があるのではないかと考えて、大学で研究を開始します。
それは、7カ国をピックアップして、心臓疾患の状況を調べるというものでした。
選ばれた国は、アメリカ、イタリア、ギリシャ、フィンランド、オランダ、ユーゴスラビア、そして日本。
40歳から59歳の約12000人を、20年に渡って調査しました。
その結果、心臓血管系の病気の発生率と血中コレステロール値、飽和脂肪酸の摂取量の間には、強い関連性があるということが分かります。
これ以降、コレステロールは下げた方がよい、という考えが急速に広まります。
1960年代には、不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸を減らし、血中コレステロールを減らす、という考えがアメリカで広く受け入れられるようになりました。
さらに、動物性のものには飽和脂肪酸、植物性のものには不飽和脂肪酸が含まれる、というイメージが徐々に固まっていきます。
実際には動物性、植物性で単純に分けられるものではないのですが。
調査の結果は、1980年に本になって出版されました。
人々は、地中海地域では、脂肪分はたっぷり摂るのに心臓病の発生率は低いということ、それに対してアメリカでは発生率が10倍も多いということを知ります。
そしてそれは、野菜と果物とオリーブオイルをたっぷり取る、一昔前の地中海地域の食生活のおかげ、ということをすぐに受け入れました。
ちなみに、この調査では、日本は地中海地域に次いで2番目に心臓病の発生率が低い国となっています。
コレステロールが人体に及ぼす影響については、いまだに議論が絶えませんが、アンセル・キーズ博士の研究がなければ、地中海式ダイエットという食スタイルがこれほど広まることはなかったでしょう。
アンセル・キーズ博士は、戦後に一度ナポリに滞在していますが、1975年から2003年までの約30年間、カンパーニア州南部のピオッピという町で暮らしました。
そして2004年に、100歳と10カ月で亡くなっています。
まさに、身を持って地中海式ダイエットを証明したかのようなご長寿でした。
アンセル・キース博士と地中海式ダイエットの動画。
アンセル・キース博士の業績を紹介する動画は、圧倒的にイタリアで作られたものが多いですねえ。
やはりイタリア人には強く支持されています。
博士は地中海式ダイエット以外にも有名な業績があるのですが、それはイタリアとも少なからず関係がありました。
次回はその話です。
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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2008年9月号
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