イタリア料理ほんやく三昧: ババ

2009年7月10日金曜日

ババ

今日はババの話。
『ヴィエ・デル・グスト』の記事の解説です。

ババ babà はナポリの名物ドルチェ。
特徴は、可愛いきのこ形。
でも外見とは裏腹に、アルコール度の高いラム酒のシロップをたっぷり吸い込んだ大人な味。
私の場合、何も知らずに生まれて初めてババを食べた時、フィレンツェのパスティッチェリーアの店内で酔っ払いになったという、人には言えない過去があります。



ババのラム酒シロップ漬け, photo by mararie



ババは名前からしてインパクトがあるドルチェですよねー。
イタリアの人は“ババ”をどんな風に発音するのか、ちょっと聞いてみてください。
ナポリのパスティッチェリーアのババとスフォリアテッラ作りの動画です。
見事というか、かなりイタリア~ンな手さばき!






この動画では、ババと言う名前は、『千夜一夜物語』のアリババからつけられたのではなく、ポーランド語で「おばあちゃん」という意味の“ババ”という言葉が語源ではないか、と言っています。
確かに、このドルチェの由来を考えるとポーランド語と言うのもありだけれど、「おばあちゃん」じゃ夢がないなあ。

ババは、なかなか壮大な背景を持つドルチェです。
何しろ、生みの親はポーランド王ですからねー。
正確には、王位を放棄した元ポーランド王。
スタニスワフ一世レシチニスキ(1677-1766)という人です。
こんな人→wiki

この人、王位を放棄した代償に、現在のフランス北部のロレーヌ地方にあたる、ロレーヌ公国を与えられました。
フランスに移り住んだ彼は、甘いものが好きだったようで、毎日お菓子を食べていました。
ロレーヌ地方の名物菓子と言えば、クグロフ。


photo by distopiandreamgirl


当然ながら、かなりの割合で、王様の料理人が作るデザートはこのクグロフです。
いくらおいしくても、毎日食べていると飽きてくるのは仕方のないこと。
しかもクグロフは発酵生地で、パサパサしていて喉に詰まる。
王様はクグロフをマデラ酒に浸してみました。
しっとりはするけれど、味が今一つピンとこない。
インパクトがないんです。
地元のワインでも試してみましたが、ロレーヌ地方の冬は寒いので、ワインでは物足りない。
体が暖まるような、もっと強いものが欲しい!

そしてとうとう見つけたのが、ラム酒です。
カリブ海生まれのサトウキビの酒。
インパクトはバッチリです。

冷静に考えれば、元王様は、ラム酒に浸すことを考え付いただけなのですが、この時以来、ババはポーランド王が考案したお菓子、というロマンチックな宣伝文句を手に入れたのでした。

ババという名前は『千夜一夜物語』のアリババから取った、という説には、実際には有力な根拠はないようです。
現代人から見ると、アラビアンナイト=ディズニー=子供向き、といったイメージもある『千夜一夜物語』を、いい歳をした王様が好きだったというのも、ちょっと不自然。
でも、『千夜一夜物語』が初めてフランス語に訳されてヨーロッパに伝わったのが18世紀始め、ということを考えると、ちょうどその時代に生きていた元ポーランド王が、アリババの話がお気に入りだったというのもあり!と思えてきます。

ただ、この説の弱点は、じゃあなぜ“アリババ”ではなくて“ババ”なのか、という疑問にすっきりした答えがない、ということ。
『ヴィエ・デル・グスト』では、「ナポリの人はアリババからアリを取ってババと呼んだ」と書いています。
でもこれは、「アリババが語源」説が前提の話ですね。

元ポーランド王がクグロフに手を加えた新しいお菓子は、イタリアのナポリとフランスのパリの二つに分かれて進化を遂げました。
ナポリではババとなり、パリではサヴァランとなります。

ババの話、次回に続きます。



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関連誌;『ヴィエ・デル・グスト』2008年2月号
“ババ”の記事の解説は、「総合解説」'07&'08年2月号、P.31に載っています。

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4 件のコメント:

くるり さんのコメント...

ええーっ、ババで酔っぱらったって本当ですか。ワインもいけるクチなのに。って見たことないけど(笑)しかしまたあやしいたぐいの話ですね。面白いけど。そういえばスフォリアテッラって巻くのがすごく大変だって聞きました。いやになるぐらい巻くって。そうでしょうね。でもあれはラードだから王様じゃなくて貧乏人用?

Vittorio さんのコメント...

ババは私が一番好きなドルチェですね、
フランスではお店ごとによって呼び方が違い両方の名前を使っていました。

形もドーナツ型、シャンパンの栓型のまちまちでした

私はババ派なんです。

確かに酔っ払いますね(笑)、私でさえそうでした。

私がババを作るとお客様からクレームがきて、ラム酒のふり方があまいとマダムからよく呼び出されました、

日本のパスティッチェリーアにもあまり見かけなくなりましたので、偶然にも3月から6月までの期間、ウチで初めてオリジナルのババを数種類のドルチェの中にいれました、意外に大人気で連日売り切れでした、

アルコールはお客様の好みで必要な方だけ別にお出ししてぃす。

お客様はサヴァランは知っていた方は多いのですが、ババは知らない人が多かったので広めちゃいました、


アルコールなしのババをハハって名前にするのもいいかなぁ~(笑)

私はやっぱりprezzemoloさんが紹介したこのババがいいですね、ラム酒たっぷりで

ナポリの友達がウチの街が発祥だからと言っていたのを思いだします、しかしナポリの方は陽気ですね、こっちも楽しくなっちゃます、日本人の観光客の女性に、どうやって日本語で言えばいいのとか、恥ずかしくなっちゃいます(笑)

クグロフ、石釜に慣れない時、焦がして大目玉でした(笑)

prezzemolo さんのコメント...

くるりさん
フィレンツェで初めてババを食べたのはまだ若かりし頃で、そもそもラム酒なんて飲んだこともなかったですよー。
スフォリアテッラを巻くのは確かに大変そうですねえ。スフォリアテッラは修道女が考え出して、ナポリのパスティッチェリーア・ピンタウロが完成させたドルチェらしいから、元々は庶民向けだったみたいですね。

prezzemolo さんのコメント...

Vittorioさん
ババは、ラム酒の強さのあんばいがポイントですよね。イタリアだったら、軽いと確かにクレームつきそう。私も日本でババを食べた時は軽すぎてガッカリしました(笑)
ナポリのババでは酔っぱらったことはないなあ。さすがに本場は、絶妙なバランスを心得てますよね。
アルコールなしのババがハハって、それはおやじギャグ~!(笑)
私にはアルコールたっぷりでお願いしまーす♪