2009年3月19日木曜日

インサラータ・ルッサ

今日はサラダの話。

インサラータ・ルッサ Insalata russa 。

英語で言えば、「ロシアンサラダ」。

こんなサラダです。

一見、何の変哲もないポテトサラダですねえ。
じゃがいもやにんじんの小角切りやグリーンピースをゆでて、マヨネーズで和えた一品。
ゆで卵やツナを加えることもあります。
見た目だけでなく、中身も何の変哲もないポテトサラダです。

このサラダ、日本では、マセドニアンサラダとか呼ぶんでしょうか。
マセドニアンサラダをイタリア語にすると、マチェドーニア・ディ・ヴェルドゥーラかなあ。
でも、そういう呼び方は聞いた覚えがないなあ。
やっぱりイタリアでは、「インサラータ・ルッサ」です。


インサラータ・ルッサは、イタリア中どこでも見かける料理。
しかもクリスマス料理の定番にまでなっています。

以前、ペッレグリーノ・アルトゥージの話を書いた時に、彼のインサラータ・ルッサのリチェッタを紹介したことがあります(こちら)。
1891年に出版された著書の中で、アルトゥージはインサラータ・ルッサのことを「流行の一品」と書いていました。


イタリアでは定番サラダの一つとして昔からおなじみのロシアンサラダ。
でも、ロシアンサラダが定番なのは、イタリアだけではないようですね。

これはメキシコのKFCで出しているロシアンサラダ。


メキシコのKFCのensalada rusa, photo by El Gran Dee


ロシアンサラダは世界中に広まっている料理。
別名、サラダ・オリヴィエ。

wikipediaには、ロシア人のルシアン・オリヴィエというシェフが1860年代に考案した、と書いてありますねえ。
材料は季節によって変わるので、重要なのはドレッシングの方だったとか。
それはフランスのワインビネガー、プロヴァンスのオリーブオイル、マスタードを使ったマヨネーズの一種でしたが、レシピは極秘にされて、シェフだけが知っていました。
しかもこのサラダ、オリジナルではキャビアだのライチョウだのゴージャスな素材ばかりで、じゃがいもは入っていなかった!

1900年代になって、スーシェフのイワン・イワノフという人物が、極秘だったドレッシングのレシピを盗み見て、別の店に移って“キャピタルサラダ”(ロシア語では“スタリーチヌイ”サラダ)という名前で出し始めます。
でも、オリジナルと比べると何かが足りなくて、味はいまいちだったそうで。

その後イワノフ氏はあちこちの出版社にレシピを売ったので、この料理は広まっていきました。
ただ、材料がゴージャスすぎたので、次第にもっと庶民的なじゃがいもやにんじんを使ったサラダに姿を変えていったのでした・・・。

というのがwikipediaの話。

でも、これをそのまま信じてはいけませんよね。

まず、1891年に出版されたアルトゥージの本に、当時すでにイタリアでこの料理が流行していたと書いてあります。
イワン・イワノフという名前も、なんだかちょっとうさん臭いですよ。
ただ、実際にロシアでは、ロシアンサラダのことをスタリーチヌイと呼んでいるようですが。

イタリアのwikipidiaでは、
19世紀末にピエモンテでサヴォイア家の料理人がロシアの要人をもてなすために考え出した、
という説と、
16世紀にボーナ・スフォルツァ(ミラノ大公の娘で、ポーランドに嫁いでポーランド王妃になった)がこのサラダの原型をポーランドに伝え、それがロシアンサラダという名前で逆輸入された、
という説も紹介しています。
どちらもロシアンサラダはイタリアで生まれた、というのが前提の話。
これもうさん臭いなあ。


一般にイタリアでは、インサラータ・ルッサは、ベル・エポック時代(19世紀末から20世紀初め)のパリで生まれた料理ではないか、という説が比較的有力のようです。
当時のパリは、エッフェル塔が造られたりした華やかな時代。
ロシアと言う名前がついたのは、ロシア貴族の間で人気だったとか、キャビアのようなロシアのゴージャスな食材が入っていたからとか諸説ありますが、どうなんでしょうねえ。


貴族だのキャビアだの、ゴージャスな世界で生まれたかもしれないロシアンサラダ。
それが日本では、コロコロポテトサラダなんて呼ばれたりして・・・。
国によっちゃあ、サラダ・オリヴィエ、なんて上品な名前なんですがねえ。

そうそう、イタリアでは、「ロシアンサラダはロシアではイタリアンサラダと呼ばれている」という話も広まっているんですよ。
ここまで言われると、ひょっとしたらロシアンサラダは本当にイタリアで生まれたのかも、とちょっと思ったりして。



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関連誌;『サーレ・エ・ペペ』'06年12月号(クレアパッソで販売中)
“クリスマス料理~インサラータ・ルッサのゼラチン寄せ”のリチェッタは、「総合解説」'06&'07年12月号、P.10に載っています。


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2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ポテサラがライチョウ入りだって!?思わず信じたじゃないですか。ポテサラがロシアンサラダっていうのも知らなかったし。でもええって驚かせておいて、後で信じちゃいけないって(__;)
倒置法すぎますって。
しかし、読ませるのがすごすぎ。プレッツェーモロさんの文章好きだなぁ。
と、酔っぱらいながら感心しきりのくるりでした(関係ないけど、日本のスパークリングワインもすごいですよ。もらいもんの機山ワインを飲みながら)

prezzemolo さんのコメント...

くるりさん
ふっふっふ、実は今日のブログの裏のお題は、人の話は簡単に信じるな、そして話は最後まで聞け、だったんですねー(笑)

そういえば、柑橘フルーツ天国イタイリアで注目度上がってるゆず。次に注目の日本の柑橘フルーツはミヤガワこと早生の温州ミカン。

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